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平成16年9月11日(土) ★中坂鎮座50周年記念「神輿渡御」★
本年(平成16年)は、築土神社が現在地(中坂)に移転してから、ちょうど50年目の節目の年になります。そこで本年度の築土祭では、平成2年(1990年)以来、実に14年ぶりに、神社主催の「神輿渡御(みこしとぎょ)」が行われることとなりました。かつては2年に1度のペースで行われていた時代行列の再現で、築土神社が誇る江戸の伝統行事です。
「神輿渡御」とは、通常、「神幸祭(しんこうさい)」の一環として行われるもので、分かり易く言うと、神輿を取り囲むように隊列を形成し、宮司以下、神職 ・氏子総代が氏子各町を行進する祭事のことで、例大祭の前後の日に、神社の神輿に祭神を迎えて縁故のある地域(氏子地域など)を巡行し、神霊を慰め悪厄退散を願うものです。
もっとも、神幸祭には必ずしも神輿が必要というわけではありません。厳島神社(広島県)のように船に神霊を乗せて「海上渡御」を行うところもあります。ただ、やはり神幸祭では、神霊を神輿に乗せて担いで運ぶ「神輿渡御」を行うのが一般的のようです。なお、神幸祭は、隔年または一定周期を定めて行われるのが通常で、例えば江戸では山王祭(日枝神社)と神田祭(神田明神)が隔年で行われ、一方が神幸祭を行う場合は他方は陰祭(かげまつり)といって神幸祭を行いません(弘文堂 『神道事典』参照)。
神幸祭(神輿渡御)では隊列を組んで行進するわけですが、隊列の順序には、古来より受け継がれてきた一定の形式があります。まず行列の先頭は、「先導(せんどう)」が行列の梶を取って歩き、その後ろを神社名の入った高張堤燈(たかばりちょうちん)と神幸旗(しんこうき)が続きます。次に「鉄杖(てつじょう)」が続きます。鉄杖は魔除けの役割を担い、鉄の杖を地面に強く打ち突けながら進みます。
そして次に「猿田彦(さるたひこ)」が続きます。「猿田彦」は通称「天狗(てんぐ)」と呼ばれ、築土神社の祭神でもある邇々杵尊(ににぎのみこと)が地上に降り立つ際、邇々杵尊の道案内をしたと云われています。「猿田彦」の後には「太鼓(たいこ)」が続き、太鼓を打ち鳴らしながら進みます。いわば前進の合図です。「太鼓」の後には、神社名の入った「神社旗」が掲げられます。「神社旗」の次は「大麻(おおぬさ)」が続き、行列が交差点や曲がり角にさしかかる度に、神職が大麻で厄災を祓いながら進みます。
「大麻」の後は、神職が「辛櫃(からひつ)」と「賽物櫃(さいもつひつ)」を運びながら進みます。「辛櫃」には米や塩などの御供物(神に捧げる食糧)を入れます。「賽物櫃」は行進の途中で、参列者や観衆が賽銭を投げ入れるための箱です。その後には、「氏子総代(うじこそうだい:氏子の代表)」と、3人(原則)の「大総代(おおそうだい:神社の責任役員)」、そして「宮司」が続きます。「宮司」は「傘持(かさもち)」を従え、馬またはオープンカーに乗って進みます。「大総代」も「宮司」と一緒にオープンカーに乗る場合があります。
そして「宮司」の後には、いよいよ、「御幣(ごへい)」と氏子各町の「神輿(みこし)」が威勢良く担がれて行進します。「御幣」はもともとは神様への奉げ物を意味しましたが、やがて「神の象徴」として用いられるようになりました。つまり、神輿の中に神様が乗っていることを周囲に知らせ、神様がもうすぐ通ることの合図です。「御幣」は、普通、神輿が通る地域の氏子が交代で持ちます。例えば、神輿が飯田橋地区を通るときは飯田橋町会の総代(代表)が持ち、九段地区に入るときは九段町会の総代(代表)に交代します。なお、「御幣」に金色の装飾を施したものを「金幣(きんぺい)」といいます。
「神輿」の後では、「楽人(がくじん)」が龍笛(りゅうてき)や笙(しょう)で神楽(かぐら)を演奏します。「楽人」は「伶人(れいじん)」ともいい、普通は囃子車(はやしぐるま)に乗って進みます。
これらをまとめると、隊列の順序や人数は、概ね以下の表のようになります。
(1) | 先導(せんどう) | 行列の舵取り役 | 2人 |
(2) | 高張堤燈(たかばりちょうちん) | 高張堤燈を掲げる | 2人 |
(3) | 神幸旗(しんこうき) | 神幸旗を掲げる | 2人 |
(4) | 鉄杖(てつじょう) | 魔除け | 1人 |
(5) | 猿田彦(さるたひこ) | 通称「天狗」。神様の案内役 | 1人 |
(6) | 太鼓(たいこ) | 前進の合図 | 3人 |
(7) | 神社旗 | 神社名の入った旗を掲げる | 1人 |
(8) | 大麻(おおぬさ) | 道中の厄災を祓う | 1人 |
(9) | 辛櫃(からひつ) | 米や塩等の御供物を運ぶ | 2人 |
(10) | 賽物櫃(さいもつひつ) | 参列者から賽銭を受ける | 1人 |
(11) | 大総代(おおそうだい) | 神社の責任役員 | 3人 |
(12) | 氏子総代(うじこそうだい) | 氏子の代表 | 多数 |
(13) | 宮司(ぐうじ) | 神幸祭の祭主 | 1人 |
(14) | 御幣(ごへい) | 神様が通過する合図 | 1人 |
(15) | 神輿(みこし) | 神霊(しんれい)を乗せる | 多数 |
(16) | 楽人(がくじん) | 囃子車(はやしぐるま)に乗って神楽を演奏 | 多数 |
但し、必ずしもこのような順序に則して行われるとは限りません。各神社、地域によってもやり方は様々です。例えば、宮司が神輿の前でなく、後ろに付いて行進する神社もあれば、規模の大きな神社になると、宮司の前にさらに先導の騎馬神職が付いたりします。神幸祭は、いわば、各神社、各地方特有の「個性」が出る場であり、それが「神輿渡御」の一つの面白さでもあるのです。
ちなみに、今回行われる築土祭の神輿渡御では、(3)神幸旗 (4)鉄杖 (9)辛櫃 (10)賽物櫃(上の表で白番号になっているもの)は隊列には参加しません。
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